長期熟成用の素晴らしい上級赤ワインの作り方について幾つか述べたいと思います。これらは、まずワイン愛好家として、その後、プロフェッショナルのバイヤーとしての経験を通し、試飲や、多くのワイン生産者やワインの業者/専門家との交流から確信を得た意見です。
この古代の昔から、何か新しくなったものがあるでしょうか? |
1. ワインに天才はない。千年を通して伝えられてきたノウハウがあるだけだ。
フランスのワインは千年を超える伝統があります。 ですから、テロワールとワインの作り方は、フランス、特にブルゴーニュのワイン生産者には既によく知られています。 美味しいワインを作る技は、エンジニアのノウハウに似て、よい生産者がブドウ畑でよい仕事をし、 よいブドウを注意深く醸造する、に尽きます。
美味しいワイン作りに革新的技術はありえず、 美味しいワイン作りに天才やグル(導師)はありえないのです。ただ、テロワールとワイン生産者があるだけです。そこに、 よいテロワールやそうでないものがあったり、 よい仕事をする生産者がいたりそうでなかったりするのですが。
グランヴァン(偉大な、素晴らしいワイン)は、あるテロワールの果実に、 生産者が古来からのレシピを用いて魔法をかけたワインです。 生産年がよい年であったかどうかも重要ですが、 素晴らしいテロワールは常によいワインを生み出します。
ルイ・パスツール:唯一のワインの天才? |
1866年、ルイ・パスツールによるワインの研究 |
2. どうやってグランヴァンを作るか?
まず最初に、グラン(偉大な、素晴らしい)テロワールが必要です。そして、生産者は、最大限の注意と知識でもって、良い原理に則った醸造を行い、テロワールを引き出して表現し、味わいの修正を最小限にしなければいけません。シンプルであればある程、一般的にはよいのです。
しかし、生産者の経験と知識を最小化しようといっているわけではありません。それらは仕事を通して得られ、代々受け継がれていく、生産者にとって最も大事なものです。生産者としての匠の技は、状況を的確に把握し、必要な時のみ最小限に手を加えることです。また、テロワールから最上のものを引き出したワインを作るために、テロワールを知っていることも大切です。例えば、一般的なテロワールからは、グランヴァンを作ることは不可能です。また、タンニンの強いワインを作る傾向のテロワールでは、抽出は柔らかく行わなければいけないことも、知っていなければできません。
そして以下は、長期熟成用赤ワインの作り方の概要です。これはバイヤーとしての私が大切だと考える技術的仕様です。以下列挙したものは、十分な結果を得るためには全て重要です。しかし実際にこれを本当に全て行っている生産者はほんの僅かです。ワイン作りの仕事においては、シンプルさは必ずしも容易ではないのです。
ブドウ作り
ブドウ畑での仕事は膨大です。木1本あたりのブドウの房の数は制限されなければいけません。ブドウの木は、木に実ったブドウが少量の時のみ、ブドウに良い成熟をもたらすことができるのです。品種によっては、特にピノ・ノワールなどは、ブドウを多く実らせることはできないのです。除草剤は用いず、土を梳いて畑に酸素を送り、畑が生き生きとしていなければいけません。畑が生きていれば、肥料は不要です。ブドウの木に葉が茂っていることも大切です。これはよいフェノール熟成を得るためにブドウの木が光合成をするのに必要なので す。この葉が、ブドウが熟す9月に大きな役割を果たします。
ビオについて。ビオの規格は、北の方では品種によっては不可能なこともあります。たとえば、2012年はブルゴーニュは悪天候で、べと病やうどんこ病などの病害の被害が一帯でみられましたが、表面だけに用いる有機溶剤(ボルドー液など)は、効果をなすまでに何度も使用しなければならず、 ビオの制限量を超えてしまうからです。
収穫
収穫はできるだけ涼しくて乾いた天気のときに、ブドウの熟成がちょうど最適の時を狙って行われなければいけません。例えば、 ピノ・ノワールは熟していなければいけませんが、熟しすぎてもいけません。熟しすぎるとアロマを失ってしまい、 たちまち重たいワインになってしまいます。収穫は手摘みで、 ブドウの房が重みで潰れないように浅い籠に並べられます。そして、 醸造所の選別台の上で手作業で選別され、発酵槽に入れられます。この時、特に大切なことは、痛んだものは何も絶対に発酵槽の中に入れないことです。
醸造
醸造は、 批評家たちの専門用語でいう「現代的」とは正反対の、「伝統的」であるべきでしょう。まず第一にエレガンスと繊細さを追求します。 そういったワインだけにテロワールが真に表現されるのです。
醸造では、できるだけ手を加えないようにし、ブドウが持つものをそのままに、酵母の働きにできるだけ任せます。味わいの修正は、いつもアロマの複雑さを失うのがつきものなのです。敢えて印象付けるような偽りのアロマ(樽香、酢酸アミル・・ ・)でマスクをしたようなワインを作る、一切の人工的な作業は排除すべきです。
収穫されたブドウは、涼しいコンクリート槽に入れられます。 それだけです! 「最も良いうちの最良のところ」 だけを得る柔らかい抽出のためには、温度を意図的に下げすぎてはいけません。 発酵は自生酵母のみを用いてゆっくり 始まります。 ほんの僅かな二酸化硫黄以外には何も発酵槽に入れません。また、カルボニック・ マセレーションや温度調節といった醸造テクニックは一切用いませ ん。発酵が一旦始まったら人の手による介入は必要最小限で、 澱引きは一回だけです。発酵後マセレーションを行う場合も、やはり抽出しすぎないように注意が必要です。
醸造では、できるだけ手を加えないようにし、ブドウが持つものをそのままに、酵母の働きにできるだけ任せます。味わいの修正は、いつもアロマの複雑さを失うのがつきものなのです。敢えて印象付けるような偽りのアロマ(樽香、酢酸アミル・・
収穫されたブドウは、涼しいコンクリート槽に入れられます。
コンクリート槽: これ以上に良い発酵槽はないでしょう |
澱引き(つまり容器を移し変えること)は、実際はワインを酸化させてしまいますから、澱引きの回数は最小限にとどめるべきです。一般には瓶詰め前に一度で十分です。樽香は繊細に、ブドウのジュースの力強さに比例させて調整します。マロラクティック発酵は瓶詰め前迄には終わっていなければいけません。澱引きや瓶詰めは、機械ポンプではなくできるだけ重力を用いて行います。フィルターなどを用いた清澄作業も出来るだけ行わないようにします。
冷涼なセラーで上質の澱上で樽熟成 |
3. その他
カルボニック・マセレーション、もしくはもっと一般的に炭酸ガスで保護したマセレーション
このテクニックは二酸化硫黄を全く、もしくは微量しか用いずに醸造することを可能としますが、同時に発酵の香りを与えてしまいます。出来上がったワインは、果実味が衝撃的で、キャンディーやアセトアミルの人工的な味わいです。この種のワインは長期保存できず、よい熟成をしません。更に、タンニンと酸味が分離したような味わいになる傾向があります。するべきではないでしょう。
房全体の収穫
茎のタンニンも加わり、ワインの複雑さを増すこともあります。但し、茎もまたよく熟していなければいけませんが。カルボニック・マセレーションと同様の発酵のアロマをもたらしてしまうこともあります。注意深い配慮が必要です。
発酵時の温度調整
経験よりこれは全く良くありません。酵母は邪魔されることをとても嫌うと考えられています。出来上がったワインは人工的にとても広がりのあるものとなりますが、アロマもまた人工的で厚化粧です。ご法度でしょう。個人的には温度調節のあるステンレス槽は避けます。
いきすぎた低温での抽出
収穫したブドウをとても冷たいところに保存します。5度から0度以下のこともあります。低温によりブドウの皮がはじけて破れ、抽出されやすくなります。経験から、これが温度調節と同様の効果をもたらします。抽出が強く、味わいが大きいけれど複雑に欠け、人工的なアロマです。ご法度です。
二酸化硫黄無添加
流行でしょうか?良くない宣伝文句です。二酸化硫黄は出来るだけ少なく使用するべきですが、二酸化硫黄をどんなことをしてでも使用しないというのは間違いで、ブレット、ピキュアージュ、ブドウの病気など、不味いアロマをもたらしたり、熟成することなく酸化してしまうなど、深刻な結果を導くかもしれません。嗚呼一体何本、全く駄目になった「二酸化硫黄無添加」ワインを飲んだでしょう!
添加酵母
ブドウの皮やワインセラーの中に自然に備わる酵母(これを自生酵母と呼びます)よりも、用途によって使い分けるよう作られた添加酵母を発酵に用いるべきでしょうか?
「よい」酵母、つまり添加酵母だけを用いるために、既存の酵母を取り除くのは技術的には可能です。ブレットのような悪い味わいをもたらす発酵の危険性も排除できると同時に、発酵槽に二酸化硫黄を更に加えることにもなります。工業生産の酵母は、全く無味無臭のものもあれば、ある種の発酵アロマを多く与えたり、また「フェノタイプ・キラー」と呼ばれる発酵槽中の他種の酵母を取り除いてしまうものもあります。大量生産を行う生産者によっては、テロワールの酵母をワイン中に保つことを恐れて、実際はラボラトリーでそのテロワールから取り出した酵母を組み合わせて用いたりもするのです。
実際のところ、ボルドーワインの大多数は添加酵母を用いていて、ブルゴーニュワインの多くはそれを用いていません。
私は、工場生産ワインに添加酵母を用いることはある程度理解しますが、手作りワインには不要であり、したがって疑わしいのです。経験から私の飲んだ最高のワインは、酵母を添加してはいません。
ビオディナミ
環境を配慮した農業の実践と、特に畑が生きていることについては、私も全くもって必要と考えます。しかし、ビオディナミについては大変懐疑的に考えています。まず第一に、ビオディナミの仕様書はあいまいです。多くの部分が秘密めいて分かりにくいです。例えば、何故(そこいらじゅうに生えている)イラクサを煮出したオメオパシーの溶剤を畑に撒くのか?どうも私にはペテンにしか思えません。例えば、ビオディナミを実践している生産者が、躊躇せずトラクターを畑に入れたり、また添加酵母を加えたり、温度調節やマイクロ・オキシジェネーションを用いたりと、醸造時に大変手を加えたりします。にもかかわらず、私も喜んで共に仕事をしている生産者には、ビオディナミについても良い点があると言う人も少なくありません。また彼らは例えば、畑やワインの仕事を太陰暦のカレンダーに則って行っています。
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